遺産分割協議の方法と留意すべき2つのポイント

協議 遺産分割

この記事の目次

  1. 協議による「遺産分割」
  2. 分割協議で留意すべき「特別受益」
  3. 分割協議で留意すべき「寄与分」

協議による「遺産分割」

ポイント:遺言があってもその内容では不都合との合意があれば、協議によって遺産を分割することができる。

遺言がなくても遺言があっても

遺言があれば遺言のとおりに相続をおこなうのが原則です。遺言がなければ、相続人間で遺産の分割に関する話し合いをおこない、そこでの合意にしたがって遺産の分割をおこなうことになります。

また、遺言があったとしても、それが相続人にとって不都合であるなどの理由により遺言とは異なる内容の合意がおこなわれるならば、遺言書の全部または一部の内容を「無視」するかたちでの相続も可能であることは先にも書きました。

遺産分割協議の方法

遺産分割協議の方法については、法律に特段の定めはありません。ですから、相続人が一堂に会して遺産目録を目の前に置いて会議をおこなっても、文書を郵便でやりとりしても電子メールで意見交換をおこなっても差し支えありません。

ただし、遺産分割の合意ができあがった場合には、後述の「遺産分割協議書」を作成することが重要です。

分割を考えるに際しての基準

相続人間で合意ができるのであれば、だれが何をどれだけ相続するかについて法律は一切関与しません。たとえば、1人に財産のすべてが渡っても、合意ができてさえいれば問題ありません。法律には法定相続分の定めがありますが、これに従う必要はありません。

遺産分割協議の進め方

遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の健康状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。(民法906条)

協議を始めるにあたって考慮すべきこと胎児がいる場合

  1. 胎児がいる場合
    すでに生まれている者として相続人に含まれるが、死産だった場合、あるいは予期せず双子が生まれた場合等を考えると、円滑な分割のためには、生まれてからの協議がのぞましい。
  2. 未成年者がいる場合
    家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、特別代理人を含めて協議を行う必要がある。
  3. 行方不明者(不在者)がいる場合
    家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらい、財産管理人の関与のもとで分割協議をおこなう必要がある。
  4. 相続を放棄した者は、相続人から除外される
    その子や孫も相続人にはならない。
  5. 相続欠格事由のある者、廃除された者は、相続人から除外される
    ただし、その子や孫は相続人になるので、協議に参加する。

内容をつめるにあたって考慮すべきこと

(1)特別な考慮が必要な財産

  1. 農地(分割によって細分化しすぎると、農業経営が不可能になりかねない)
  2. 家業(分割によって細分化しすぎると、小さな町工場や商店の経営は立ちゆかなくなる)
  3. 祭祀供用物(相続の基本参考)

(2)各相続人への配慮

  1. 各相続人の収入、健康状態、
    例:もう収入の見込みのない年金生活の妻の住居がおびやかされないか、就労困難な障害者である兄弟への配慮など
  2. 各相続人と被相続人の個人的関係
  3. 被相続人の財産の形成・維持への貢献度(特別受益・寄与分をどう考えるか)

分割協議で留意すべき「特別受益」

ポイント:分割を多角的に見てより公平にするために「特別受益」と「寄与分」という制度がある。

特別受益や寄与分を考慮することの意味

相続人間で合意ができれば、どのように遺産を分割しても自由です。

しかし、相続人のうちの1人が自分の権利をめいっぱい主張したことがきっかけとなって、それぞれが自分の法定相続分を主張せざるをえない事態となることがままあります。

このような状況になると、たとえば生前に親からまとまった資金援助を受けていた子とそうでない子とが同じ相続分という結果では、不公平という感情はぬぐえません。

また、家業を引き継ぐなどして親の財産成に貢献した子と、サラリーマンになって家業に何の貢献もしていない子とが同じ相続分という結果では、やはり不公平という感じがします。そこで出てくるのが、「特別受益」と「寄与分」という制度です。

特別受益とは

特別受益とは、被相続人の生前に、一部の相続人が他の相続人と比較して特に多めの財産の分配を受けた場合(家を建てたときの援助など)、それを相続分の先渡しととらえて、実際の相続時におこなう相続分の計算の際には、その前渡し分を計算に入れて相続分を計算するというものです。

これにより、相続人間の不公平を解消しようとするわけです。

押さえるべきことは、「どのようなものが特別受益となるか」、「どのように計算すべきか」という点です。

特別受益の持ち戻しの計算方法

特別受益のある相続人がいる場合、特別受益をいったん相続財産に加え(戻して)、それを相続分算定の基礎とします。

「特別受益」となる財産

遺贈例外なく特別受益となる
婚姻、養子縁組のための贈与持参金、結納金、支度金など
生計の資本としての贈与広く生計の基礎として役立つような贈与は すべて含まれる。
・子どもの中で1人だけ大学に進学させて もらった場合の学費
・家を建てるときに援助してもらった頭金
・家を建てるときに分けてもらった土地
・借金の肩代わりをしてもらった額

特別受益の評価の時期

基本:貨幣価値の変動を考慮して、受益当時の価額を相続開始時点の価額に換算して計算する。

計算方法

作業1:特別受益の額を算出する。

グレーの矢印

作業2:持ち戻しによって「算定の基礎となる財産」を確定する。

遺産が1億円で、一人だけ2000万円の特別受益を受けている者があれば、「算定の基礎となる財産」は、1億円に2000万円を戻した1億2000万円。

グレーの矢印

作業3:これを基礎として各相続人の相続分を算定する。

相続人が子4名であれば、1人当たり3000万円。

グレーの矢印

作業4:特別受益を受けた人は、この「相続分」から、特別受益分を差し引く。

3000万円−2000万円=1000万円。
これが特別受益を受けた人の実際の相続分となる。

分割協議で留意すべき「寄与分」

ポイント:特定の子どもが親の財産の形成に貢献したら、その子だけ配慮するのが「寄与分」。

寄与分とは

特別受益とは逆に、相続人の一部に親の財産の形成や維持に貢献があった場合、実際の相続時におこなう相続分の計算の際には、その貢献分を先取りするかたちで計算して相続分を計算するという制度です。これにより、相続人間の不公平を解消しようとするものです。

前項でもみたように、生前にマンション購入の援助をしてもらったなどの「特別受益」は、比較的目に見えやすいものと言えます。

これに対して、「寄与分」は目立たないものであることが多いため、そのようなものは存在するのかということが第一に問題となり、次にはそれをどのように計算するのかということが問題になります。

どのようなものが「寄与」と言えるか

特別な寄与が必要です。たとえば被相続人の家業に無償にちかいかたちで従事したことにより、遺産形成に貢献した例があげられます。

給与を得ていたならば、貢献は給与で評価済みですので特別な寄与には該当しません。

また、被相続人の療養看護に尽くしたり、他の兄弟と大きく異なった扶養を尽くしたことにより遺産形成に貢献した例があげられます。

右の例から、それが特別な寄与に該当するとしても、どれだけの寄与があったのか、計算が容易でないことは察しがつくものと思います。

寄与分について

寄与の態様の例

家業従事型被相続人の事業に対して、無報酬(に近い状態)で従事し、労務を提供して、相続財産の維持・増加に寄与。
財産給付型被相続人に対して、財産上の給付(財産的な利益)をして相続財産を増加させ、または債務の返済等によって被相続人の財産の維持に寄与。
療養看護型被相続人の療養看護に従事して、医療費の支出を回避することで、相続財産の維持に寄与。
扶養型財産を提供して、被相続人の生活を支え、相続財産の維持に寄与。
財産管理型被相続人の財産を管理して、相続財産の維持に寄与。

寄与分が認められるために立証しなければならないこと

  • ・寄与をした時期
  • ・寄与の方法
  • ・寄与の態様
  • ・それが通常の扶養義務の範囲を超える「特別」の寄与だったこと
  • ・その結果、どのようにして財産が維持され、増加されたのか(関連性)

寄与分がある場合の計算方法

作業1:寄与分の額を算出する。

グレーの矢印

作業2:遺産の総額からあらかじめ寄与分を控除して相続財産(算出の基礎となる財産)を決定する。

グレーの矢印

作業3:そこから、それぞれの相続分を算出する。

グレーの矢印

作業4:寄与者に対しては、作業3で算出された相続分に2で控除しておいた寄与分を加算して、実際の相続分を算出する。


■参照元
改訂増補 親の葬儀とその後事典
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平成20年9月30日 旧版第1刷発行 
平成29年5月26日 改訂版第1刷発行

著 者:黒澤計男 溝口博敬
発行者:東島俊一
発行所:株式会社法研

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