行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは身元不明の死者の取り扱われ方のこと

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行旅死亡人とは?徹底解説

  • 身元不明の無縁死者を行旅死亡人と呼ぶ
  • 発見自治体が遺体を火葬し、骨は保管する
  • 火葬・埋葬費は公費や県費で賄われることも
  • 無縁防止には人間関係の維持、遺書が効果的

行旅死亡人とは『行旅病人及行旅死亡人取扱法』の中で定められている身寄りが判明せず、引き取り手のいない死者のことです。

遺体を引き渡す遺族や関係者が見つからないために自治体が火葬を行い、遺骨を一時的に保管し、引き取り手を捜しますが、それでも見つからない場合は無縁仏として埋葬されます。

もともとこの法律は旅行中、あるいは流浪や困窮の中で行き倒れた人が対象でした。
しかし現代は孤独死が年間に3万人を超える、いわゆる「無縁社会」です。

たとえば田舎から上京した若者の自殺や高齢者の孤独死、さらには不慮の事故死など、こうした亡くなり方によって行旅死亡人になる可能性は誰にでも起こり得るでしょう。

この記事では行旅死亡人がどのようなものなのか、行政がどのように死亡人を取り扱うのかをまとめました。

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この記事の目次

  1. 行旅死亡人とは所在が判明できず引き取り手のいない死者のこと
  2. 行旅死亡人の対応は自治体が対応する
  3. 行旅死亡人の遺産の使われ方
  4. 行旅死亡人は官報から探すことが可能
  5. 行旅死亡人にならないために今からできること
  6. まとめ
  7. 監修者コメント

行旅死亡人とは所在が判明できず引き取り手のいない死者のこと

行旅死亡人とは本人の身元が判別できず、遺体の引き取り手がない死者を指す法律上の言葉です。
その言葉から旅行中の行き倒れて身元が分からない人を連想しがちですが、病気、事故、自殺、他殺も含めて身元が判明しない人はすべて行旅死亡人として取り扱われます。

昨今では独居老人が増加していますが、孤独死で身元が分からない場合も行旅死亡人になります。

年間当たりの行旅死亡人数

年間当たりの行旅死亡人数の統計は発表されていませんが、ここ数年で『官報』(国の広報誌)に公告された行旅死亡人の数は年間600件から700件で推移しています。

行旅病人及行旅死亡人取扱法

身元の判明しない死者や引き取り手のいない死者の取り扱いは『行旅病人行旅死亡人取扱法』という法律に定められています。

この法律の中では行旅人が死亡した場合、死亡地の自治体が救援することや火葬や埋葬について、公告の出し方、費用負担の順序などについて定められています。

行旅死亡人と行旅病人

『行旅病人及行旅死亡人取扱法』は、もとは旅行中に行き倒れた人などの取り扱いを定めた法律でした。
その中には行旅死亡人とあわせて行旅病者についても定義されています。

「行旅病人」とは?

「行旅病人ト称スルハ歩行ニ堪ヘサル行旅中ノ病人ニシテ療養ノ途ヲ有セス且救護者ナキ者」
(歩くこともできないほどの旅行者で、治療を受けるほどの財産もなく、かつ助けるものもいない者)

「行旅死亡人」とは?

「行旅中死亡シ引取者ナキ者」
(旅行中に死亡し、引取者のいない者)

旅行中に死亡して引き取るものもいない者のことを指すのですが、さらに次のように続きます。

「住所、居所若ハ氏名知レス且引取者ナキ死亡人ハ行旅死亡人ト看做ス」
(住所、居所もしくは氏名知れずかつ引取者のない死亡人は行旅死亡人と見なす)

この法律ができたのが明治32年です。
当時の社会状況を考えるとまだまだ地域共同体のつながりは今よりも強く、身元が不明や引き取り手がいない状況は旅行者がほとんどだったと思われます。

また、ここでいう旅行とは現代的な意味だけではなく、なにかしらの事情で郷里を追われて流浪の生活をしている人や困窮の中各地を転々としている人たちも含みます。

現代は「無縁社会」と呼ばれるように、隣近所にどんな人が住んでいるか分からないというような時代です。

住居で発見されたいわゆる孤独死でも、身元が判明しないために行旅死亡人として取り扱われ例も多くあります。

行旅死亡人の対応は自治体が対応する

行旅死亡人の対応は、死亡人が発見された自治体が対応します。
死亡人が発見されるとまずは警察や行政が身内や親族を探すのですが、それでも身元が分からない場合は行旅死亡人として取り扱われます。

遺体は速やかに火葬され、自治体が遺骨を保管した上で国が発行する官報に公告します。
公告の内容は、死亡者のおおよその年齢や外見の特徴、所持品、発見された場所や日時などです。
火葬された遺骨は一旦、自治体で保管されます。

引き取り手が現れた場合には遺骨は引き渡されますが、もしも現れなかった場合は一定期間の保管のあと合葬し、無縁仏として無縁墓地に埋葬されます。

行旅死亡人の取り扱いは『行旅病人及行旅死亡人取扱法』に則っりますが、法令の施行は各自治体の施行細則に従うため、実際にどのように遺体や遺骨が扱われるかは自治体によって異なります。

火葬・埋葬

行旅死亡人の場合は発見された時点で遺体が腐敗していることも多いためすぐに火葬します。
火葬の費用は公費によって立て替えられます。

通夜や葬儀などの儀式は行わずに火葬のみを行います。
遺骨は一定期間役所で預かりますが、期間を経過しても引き取り手が見つからない場合は無縁仏として埋葬されます。

遺骨の保管期間

遺骨の保管期間は各自治体によって異なり、施行細則に期間を明記していない自治体も数多くあります。
その中でも遺骨の取り扱いについて詳しく定めている自治体に、兵庫県神戸市と兵庫県洲本市があります。

ともに遺骨の保管期間を5年間とするだけでなく、遺骨の一時保管の場所、保管期間を経過したのちの無縁仏としての埋葬地まで定められています。
神戸市の『行旅病人及行旅死亡人取扱法施行細則』第6条を引用します。

『行旅病人及行旅死亡人取扱法施行細則』

第6条 区長は,行旅死亡人を火葬した場合において,遺骨を引き取る者のないとき又は引き取る者が明らかでないときは,神戸市立舞子墓園附属納骨堂(以下「舞子墓園」という。)において,これを保管するものとする。
2 前項の規定による遺骨の保管期間は,特別の理由のない限り,5年間とする。この場合において,その起算日は,舞子墓園に納めた日の属する年度の翌年度の4月1日からとする。
3 区長は,前項の保管期間の経過後は,神戸市立鵯越墓園に無縁仏として納骨するものとする。

このほか、施行細則で保管期間を定めている自治体は、新潟県阿賀町が1年間、新潟県南魚沼市が20年間と自治体によって大きな開きがあります。

行旅死亡人の遺産の使われ方

行旅死亡人が所持していた金品や有価証券などの遺産はどのように扱われるのでしょうか。
本来、遺産は相続人たちに分割相続されますが、行旅死亡人の場合はそれができないために自治体は所定の手続きを踏んで遺産を取り扱います。

火葬・葬儀での費用負担

行旅死亡人の火葬や埋葬にかかる費用は、原則として死亡人の所持品の中に金品が充てられます。
もしも所持金が無い場合は一旦自治体が費用を立て替えて火葬や埋葬を行います。

引き取り手が見つかった場合には、自治体は火葬・埋葬費用を引き取り手に請求します。
しかし、引き取り手が費用の支払いをしなかったり、引き取り手そのものが見つからないケースも多々あり、その場合は最終的には都道府県が費用を負担します。

具体的に遺体の取扱によって発生する費用がどのように支払われるのか。下にまとめました。

  1. 遺留品(死亡人が所持していたもの)の中に現金や有価証券などがあればそれらを支払いに充てる
  2. 遺留品で不足の分は発見地の自治体の市町村費で立て替える
  3. 相続人が判明した場合は自治体が立て替えた費用を相続人に請求する
  4. 相続人がいない、あるいは相続人に支払い能力がない場合は死亡人の扶養義務を履行すべき人に請求する
  5. 公告して60日が経過して弁済されない場合は自治体が遺留品を売却し、売却益を費用の支払いに充てる
  6. 最終的に弁償がなされない場合は都道府県がこれを弁償する

受け取り手のいない遺産

行旅死亡人には法定相続人になりうる人物がいないため、故人の遺産には受け取り手がいません。
その場合は、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選出します。

これは故人の遺産を管理する人のことで、通常は地域の弁護士が担当します。
この相続財産管理人が相続人や相続債権者を探しますが、一定期間中に該当者が見つからなければ相続
人のいない財産は最終的に国庫に帰属します。

相続財産管理人による捜索は合計3回、官報で公告します。

1回目「相続財産管理人選定の公告」

死亡人が住んでいた家庭裁判所が相続財産管理人を選定し、その旨を官報で2か月間公告し、相続人に申し出を促します。

2回目「債権者・受遺者に対する債権申し出の公告」

相続財産管理人選定の公告を2か月間行って相続人が見つからないと、次に債権者と受遺者に対する債権申し出を2カ月以上の期間で公告します。

もしも債権者(死亡人にお金を貸していた人)や受遺者(財産を受け取る予定があった人)がいれば清算手続きをとります。

3回目「相続人捜索の公告」

2回目の公告をしても債権者や受遺者が現れない場合、さらに6カ月以上の期間をかけて相続人捜索の公告を行います。

これでもまだ申し出がない場合は「相続人の不存在」が確定し、死亡人の遺産は国庫に帰属します。仮に死亡人が借金をしていたとしても、相続人の不存在が確定すると、金融機関は債権回収のしようがなく、実質的に借金が消されていくことになります。

行旅死亡人は官報から探すことが可能

行旅死亡人については国の広報誌である『官報』から探すことができます。
官報にはインターネット版もあります。

ただし、過去30日分の官報は無料で閲覧できますが、それ以降のものは有料プランを申し込むか図書館などで調べるしかありません。

また、『行旅死亡人テータベース』という個人サイトもあり、こちらは官報の情報をベースに2010年以降の行旅死亡人の情報を掲載しています。

行旅死亡人にならないために今からできること

行旅死亡人として亡くなるということは、最期を看取る人もいなければ死後の自分を弔ってくれる人もいないことを意味します。

無縁社会と呼ばれる現代では、隣にどんな人が住んでいるのか分からないような社会に私たちは生きていて、誰もが行旅死亡人になる恐れがあるでしょう。
行旅死亡人にならないために今からできることをまとめました。

普段からの周囲とのつながりを大切にする

亡くなった人への弔いの度合いは生前のつながりが大きく影響します。
もしも親族や身の回りに心安い人がいるのであれば、元気なうちからつながっておくことが孤独死や行旅死亡人を防ぐなによりもの手立てです。

もしも家族や親族に頼れないのであれば友人や知人でも構いません。
普段からのつながりこそが、いざという時の助けにつながります。

遺書やエンディングノートなどの文字情報を残しておく

自分がどのように弔われたいのかだけでなく、親戚や知人がどこにいるのかも含めて何らかの文字として遺しておくのがよいでしょう。

遺書やエンディングノートは、死後にどのように弔われたいかをという遺志を残すのに最も適しているでしょう。

死後事務委任契約制度の活用

死後事務委任契約とは、亡くなったあとのもろもろ事務手続きを第三者に委任できる制度です。
家族がいない人でも友人や知人に委任できますし、弁護士や司法書士などに依頼することもできます。

「契約」とは口約束でも成り立つものですが、もしもあとから親族や関係者が現れて勝手に死後の手続きを進めたことに苦言を呈されるとトラブルになりかねません。

それを防ぐためにも契約書を作成して、さらには公正証書にしておくのがよいでしょう。
死後の事務的な手続きとは次のようなものを指します。

  • 役所への届け出
  • 親族や知人への死亡の連絡
  • 葬儀や埋葬の手配
  • 医療費の支払い
  • 遺品整理・自宅の処分

自治体のエンディングサポート制度を活用

自治体主導によるエンディングサポートの取り組みが徐々にではありますが始まっています。
自治体と葬儀社が連携して事前に葬儀の生前契約を結んだり、職員による定期的な巡回するなど、主に単身の高齢者の不安の解消を目的としています。
まずは自分の住む自治体にそのようなサポート制度があるかどうか役所に確認してみましょう。

まとめ

いかがでしたか?
では最後に、この記事のポイントを箇条書きでまとめます。

  • 行旅死亡人とは、『行旅病人及行旅死亡人取扱法』の中で定められている、身寄りが判明せず、引き取り手のいない死者のこと
  • 年間当たりの行旅死亡人数は600件から700件で推移しています
  • 行旅死亡人の対応は、死亡人が発見された自治体が対応する
  • 警察や行政が身内や親族を探しても身元不明の場合は行旅死亡人として取り扱われる
  • 遺体は火葬され、自治体が遺骨を一定期間の間保管する
  • 公告で関係者を募り、申し出がなければ無縁仏として埋葬する
  • 遺骨の保管期間は、1年、5年、20年など自治体によって異なる
  • 行旅死亡人の火葬や埋葬に伴う費用は、死亡人の所持する金品から充当し、不足分は相続人などに請求する。請求先が現れない場合は最終的に都道府県が負担する
  • 死亡人の遺産は、公告によって申し出がない場合は国庫に納められる
  • 行旅死亡人にならないためには、生前のつながりを大切にし、遺書やエンディングノートなどに遺志をまとめておく
  • 死後委任契約制度の活用や、自治体によるエンディングサポート事業の利用も有効

監修者コメント

監修者
終活・葬送ソーシャルワーカー
吉川美津子

行旅死亡人とは、本人の身元が判明せず、遺体の引き取り手がない死者のことを言いますが、本人の身元は判明しているけれど、遺体の引き取り手がいないという場合はどのような扱いになるのでしょうか。

身元は明らかでも遺族の所在が不明であったり、遺族が引き取りを拒否した場合などがこれに該当しますが、この場合は墓地埋葬等に関する法律を根拠法として、遺体は自治体のほうで火葬され、遺骨は保管されます。

しかし、実態は身よりがない人の遺体引き取り人を民生委員などに委託するなどして、生活保護法の元に火葬されることが全国の自治体で半ば慣例化していました。

作業としては同じなのですが、根拠法の違いによって、自治体が全額負担するか、生活保護の葬祭扶助から負担(国が3/4、自治体が1/4を負担)するかによっての違いが出てくるわけです。