介護の費用はいくら必要?平均金額と内訳をわかりやすく解説!
「家族が要介護状態になった」というとき、多くの人は困惑し、またどのようにしたら良いかを模索していくことになります。
そのなかでも特に気になるのは、「費用」の問題ではないでしょうか。
- 「在宅での介護にはいくらくらいかかるのか」
- 「施設の介護サービスを利用したときにはどれくらいかかるのか、その差額はどれくらいなのか」
- 「介護費用をサポートしてくれる制度はないのか」
- 「介護費用がねん出できなかった場合はどこに相談すればよいのか」
このような介護費用の「困った!」を解決するために、この記事では相場や支出の内訳を解説していきます。
介護費用は負担になりやすい部分ではありますが、自分たちだけで抱え込まなければならない問題ではありません。
また、困ったときには各種制度が使えるものでもあります。このあたりを踏まえて、介護が必要になったときに冷静に向かい合えるようにしましょう
この記事の目次
費用に関係する「介護レベル」
「介護レベル」とは、「日常生活において、どれほどの支援・介護を必要とするか」を示す値です。これは、「要介護認定」によって決められます。
「要介護認定」によって受けられる支援が変わってくるため、自己判断ではなく、第三者の視点によって判定されます。
2020年11月現在は、コンピューターによる一次判定を経て、その後で介護認定審査会(保健医療福祉の学識経験者5名程度)で二次判定されて決められています。
介護レベルは、「要支援2段階」と「要介護5段階」に分けられます。「要支援」よりも「要介護」の方が重く、数字が大きければ大きいほど重いと判断されます。
レベル | 必要な支援・介護 |
---|---|
要支援1 | 立ち上がりなどの支えを必要とし、掃除などで一部手助けが必要となるが、排せつや食事などの基本的なことはほぼ1人でできる |
要支援2 | 身だしなみを整えたり、歩行したりする際にサポートが必要になる。しかし排せつや食事などの基本的なことはほぼ1人でできる。 |
要介護1 | 身だしなみを整えたり、歩行したりする際にサポートが必要となる。排せつや食事などは1人でできるが、理解力が低下したり、混乱が見られたりすることがある |
要介護2 | 要介護1に加えて、排せつや食事などに少し手助けを必要とする |
要介護3 | 身だしなみを整えたり、掃除をしたりすることが1人ではできない。また、1人で立ち上がることができず、排せつを1人で行えない。歩行に難が出ることもある。不安行動や、全体的に理解力の低下がみられる。 |
要介護4 | 身だしなみなどを1人で整えることがほとんどできない。立ち上がりがほとんどできず、歩行も1人でできない。排せつがほとんどできず、多くのシーンで不安行動や理解力の低下がみられる。 |
要介護5 | 身だしなみなどを自分で整えることができず、歩行や立ち上がりもできない。排せつや食事もできない。不安行動や理解力の低下がみられる。新規申請の場合であっても、いわゆる寝たきりの状態だとこれだと認定される可能性が高い。 |
介護保険の内容と自己負担金
介護認定を受けて決められる「介護レベル」は、介護保険を受ける際の基本となるものです。
介護保険とは、介護が必要と認定された人に対してその費用などを支援するための保険です。「介護が必要である」とされれば受けることができ、保険料と税金によって賄われています。
原則として自己負担金は1割(所得によっては2~3割)で介護サービスを利用することができるもので、これによって自己負担を大きく減らすことができます。
なおこの介護保険は、40歳以上の国民すべて加入義務があり、介護保険料の納付義務があります(ただし、被扶養家族などは免除されます)。
介護保険は、
- 第一号被保険者(65歳以上)
- 第二号被保険者(40歳~64歳まで)
が受けることができます。
基本的には第一号被保険者だけを対象としています。しかし末期がんや早老症、若い人にも起こる認知症、糖尿病などによる神経障害などのように老化に起因して起こる16疾病によってサポートが必要になったと判断された場合は、64歳以下の人でも受けられます。
介護保険は、介護の度合いが重ければ重いほどサポートも手厚くなります。また、要支援状態のときは夜間対応型訪問介護などが受けられない……などのように、介護認定のレベルによって使えるサービスの内容にも違いがみられます。
また、入ることのできる施設などにも違いが出てくるため、介護認定は非常に重要な要素となってきます。
自己負担金を減らせる!介護保険を使って利用できるサービス
介護保険を使うことによって、介護の費用を出す人(多くの場合は家族)の負担を減らすことができます。
介護は、長く続くことが多いものです。そのため出ていくお金も多く、介護をする人の負担になることもあります。長期的な介護を滞りなくやっていけるようにするためには、介護保険を適切に、また上手に使うことが非常に重要です。
介護保険のカバー範囲は多岐に及びます。介護保険の概要と自己負担額をひとつずつ見ていきましょう。
訪問介護・訪問入浴・訪問リハビリ
介護をしてくれる人が家にやってきて、介護をしてくれるサービスは、「訪問介護」「訪問入浴」「訪問リハビリ」に大別されます。要介護者は在宅の状態でサービスを受けることになります。
訪問介護
介護福祉士などが家にやってきて介護を行います。入浴・排せつ・食事の介助や、要介護者のための買い物や食事作りなどを担当します。金額は内容と時間によって異なります。20分未満で166円~1時間以上で577円となります。
訪問入浴介護
訪問系のサービスのなかでも、「訪問入浴介護」は家に浴槽などを備えた特別な車がやってきて入浴の介護を行うサービスです。自宅の入浴施設やご家族では入浴させるのが難しくなった場合でも対応が可能です。1回で1,256円と決まっています。
訪問リハビリ(リハビリテーション)
理学療法士や作業療法士がやってきて、リハビリ指導を行うものです。1回につき292円です。なお、看護師などが訪問「看護」をするサービスもあります。これは20分未満264円~1時間以上1時間半未満で1222円です。
なお、病院や診療所による訪問看護と指定訪問看護ステーションのものでは金額が異なります(上記は、両方を合わせたものの最低額~最高額です)。
通所介護(デイサービス)と通所リハビリ(デイケア)
通所系のサービスは、要介護者が施設に行ってサービスを受けることをいいます。訪問は「家に来てもらうもの」、通所は「自分から通うもの」という違いがあります。
通所介護
デイサービスなどに行き、支援を受けるものです。これは介護レベルと時間によって金額が変わります。364円(3時間以上4時間未満で要介護1の人の場合)~1,150円(8時間以上9時間未満で要介護5の人の場合)となります。
通所リハビリ(リハビリテーション)
デイケアとも呼ばれます。理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などによってリハビリを受けるものです。これも、介護レベルと時間によって金額が変わります。331円(1時間以上2時間未満で要介護1の人の場合)~1,317円(7時間以上8時間未満)となります。
通所介護の場合は日常生活のサポート(入浴や食事など)をメインとするのに対し、リハビリの場合は自立した日常生活を行えるようにすることを目的として行われるものです。そのため同じように「通所」といってもこの2つには明確な違いがあり、金額面でも違いがみられます。
短期入所生活介護(ショートステイ)
「短期入所生活介護」とは、「ショートステイ」とも呼ばれるものです。これは介護者が特別養護老人ホームなどの専門施設に短期間(最大で2週間程度)入るものをいいます。専門施設ではスタッフによる食事・入浴・排せつ支援などが行われます。ご家族が冠婚葬祭で出なければならなくなった……などのケースばかりではなく、旅行などのときにも利用できます。
短期入所生活介護(ショートステイ)のサービスに関する費用は、
- 部屋のタイプ
- 利用する日数
- 介護のレベル
によって金額が変わってきます。
1日単位の費用をみると、627円(多くの人と一緒の部屋で過ごすもので、要介護1の人)~1,000円(ユニット型個室あるいはそれに近いかたちで、要介護5の人)です。
ポイントは、「一般的なホテルなどを使う場合に比べて費用の負担が極めて軽く、また専門のスタッフによるサービスも受けられる」という点です。2週間利用しても最大で14,000円となるため、費用面での負担が非常に軽く、使いやすいサービスだといえるでしょう。
短期入所療養介護
短期入所療養介護も、短期入居生活介護と同じように「ショートステイ」とされることがあります。ただしこの短期入所療養介護の場合は短期入居生活介護とは異なり、医療的なケアをメインとします。
短期入居生活介護の場合は生活面でのサポート(たとえば排せつや入浴、食事の介助など)がメインになるのですが、短期入所療養介護では「治療」「医療」がクローズアップされます。
短期入所療養介護の費用も、
- 部屋のタイプ
- 利用する日数
- 介護のレベル
によって金額が変わってきます。
755円(基本となる従来型の個室で、要介護1の人の場合)~1,046円(ユニット型個室あるいはそれに近いかたちで、要介護5の人)となります。
医療的な行為をするため、生活介助がメインとなる短期入居生活介護よりも費用は高くなります。しかしそれでも1,000円程度で医療のサービスが受けられるため、ご家族にとっては大きな負担にはなりにくいでしょう。
福祉用具のレンタル
福祉用具のレンタルも、介護保険を利用して行うことができます。介護保険を利用して安く(1~3割負担)で借りることができる福祉用具は、以下の13種類です。
- 車いす…種類も数多く用意されています。
- 車いすの付属品…テーブルや、頭を預けるヘッドレストなどがこれに当たります。
- 特殊なベッド…電動介護用ベッドです。
- 特殊なベッドの付属品…ベッドのマットレスや柵、テーブルなどです。
- 床ずれを防止するための道具…体位を変えることのできるエアマットなどが現在多く選ばれています。
- 体位変換器…介護をする人が体位を変えるときに使うパッドなどがこれにあたります。
- 手すり…ここでいう「手すり」とは、置いて使うものです。住宅の改装などを必要としないものに限ります。
- スロープ…車いすを行き来させるときに使うスロープです。
- 歩行器…さまざまな種類があります。
- 杖…歩行を助けるための杖です。種類は多岐に及びます。
- 認知症老人徘徊感知機器…ドアが開けられた時などに、介護をする人に知らせるための感知器です。
- 移動用のリフト…介護する人間の負担を軽くするものです。
- 自動排せつ処理装置…排便などを感知すると吸引する機械です。
在宅で介護をされる人にとって、あると便利な器具も介護保険を利用することで費用を抑えて借りることができます。とても便利な制度ですね。
要介護認定度別!月々の平均支出
介護は長く続くものです。そのため、「一時的な出費で済むもの」と考えるのはやや楽観的すぎるものです。
基本的には介護のための出費は毎月続くものですし、また症状が進み介護のレベルが上がることで負担も増えていきます。
介護のレベルが上がればそれだけサポートも増えますが、サポートだけではまかないきれない「差額」が生まれるようになります。
このため、実際には要介護認定のレベルが上がれば上がるほど、毎月の出費額は増えていくことになります。
なお、この「毎月かかる平均支出」は、在宅介護か施設を利用するかで大きく異なります。
加えて在宅介護であっても、「在宅介護そのものにかかる費用」と「介護サービス以外にかかる費用(たとえばおむつのお金や介護のためのリフォームなど)」に大別されます。
よって、介護にかかる費用の内訳をきちんと把握し、資金計画を立てておく必要があります。また、実際には「これよりも多くの費用が掛かっている」「平均よりも大幅に出費額が多い」としているご家庭も多くみられます。
「実際には更に多くお金がかかるかもしれない」ということを踏まえたうえで、平均額を見ていきましょう。
在宅介護の場合
在宅で介護を行う場合に必要な、支出額の平均を表にしています。
要介護度 | 平均支出/月 |
---|---|
要介護度1 | 33,000円(内、26,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度2 | 44,000円(内、30,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度3 | 60,000円(内、35,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度4 | 59,000円(内、42,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度5 | 74,000円(内、53,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
多少の増減はあるものの、基本的には介護度が上がれば上がるほど必要となる金額は増えていきます。特に要介護1のときと要介護5の場合では、毎月の費用が2倍以上変わってきます。
なお、全体の平均値を求めた場合、介護サービスそのものにかかる費用が16,000円で介護サービス以外にかかる費用が34,000円、合わせて50,000円となります。
上記の金額はすでに介護保険が適用されているときの金額です。
つまり、毎月33,000円~74.000円(※ケースによってはそれ以上)の金額が実費としてのしかかってくることになります。また、ここにさらに居住費などが必要になります。
在宅介護でかかる費用の内訳
在宅介護にかかる費用は、「在宅介護そのもの」「オムツ代」などだけではありません。ここにさらに光熱費などがかかることもあります。また、介護施設で暮らしている場合は、そこに居住のための費用がかかることになります。
ここでは一例として、要介護3のときの費用の内訳を引用していきます。
○在宅介護でかかる支出の内訳を見てみましょう(平均) ※要介護3の場合
介護施設 | 在宅介護 | ||
---|---|---|---|
居住費 | 6万8,000円 | ― | ― |
介護サービス料 | 1万9,980円 | 介護サービス料 | 2万7,048円 |
― | ― | 月額サービス利用料・超過分 | 7,280円 |
― | ― | 福祉用具レンタル(9割給付) | 5,000円 |
食事(30日計算) | 5万5,000円 | 食事(30日計算) | 5万1,000円 |
― | ― | 光熱費 | 1万円 |
その他(管理費・娯楽など) | 5,000円 | その他 | 2万8,000円 |
合計 | 14万7,980円 | 合計 | 11万8,328円 |
―引用:みんなの介護「【よくわかる】在宅介護にかかる費用は?老人ホームとの比較表」
介護施設を利用する場合も在宅介護を利用する場合も、結果的には10万円を超えるケースが非常に多いといえます。
施設のサービスを利用する場合
施設のサービスを利用する場合、毎月の平均支出はいくらくらいになるかを解説していきます。
ただ、「施設のサービスを利用する」といってもそのやり方や選択肢はさまざまです。また要介護度やご家庭の経済状態よって費用も変わってきます。
この章では、「特別養護老人ホームを利用する場合で、部屋は従来型の個室を利用する」という状況を想定します。
なお、「施設での介護の場合、自己負担額は軽減される」としているサイトもあります。そういったサイトでは、「要介護1は20,000円以下に抑えられる」などとしています。
これももちろん間違いではありませんが、実際にはこの金額に居住費や食費がかかります。このため、「特別養護老人ホームに、20,000円以下で入居できる」ということにはなりません。
要介護度 | 平均支出/月 |
---|---|
要介護度1 | 105,000円程度 |
要介護度2 | 107,000円程度 |
要介護度3 | 109,000円程度 |
要介護度4 | 111,000円程度 |
要介護度5 | 113,000円程度 |
施設でかかる費用の内訳
前述の章では「施設入居時の総額」を取りあげましたが、その内訳はどうなっているのでしょうか。
同じ条件のときの「要介護3」のときの内訳についてみていきましょう。
○介護でかかる支出の内訳(平均)
- 居住費・・・35,000円程度
- 介護サービス料・・・21,000円程度
- 食事(朝・昼・夕)・・・42,000円程度
- その他・・・11,000円程度
上記費用が合わさって、「109,000円」となります。
詳細を確認すると分かるのですが、「施設の費用」と聞いた時にイメージしやすい「居住費」「介護サービス料」よりも、食費の方が大きいことが分かります。
1日に1,400円程度、1食500円以下ではありますが、1か月分を見てもらうとなるとこれが負担としてのしかかってきます。
またこの「食費」の部分は、介護度が軽くても重くても変わらない部分なので、この点にも注意が必要です。介護度の度合いで変わるのは、基本的には「介護サービス料」だけだと考えておいてください。
介護期間は平均5年!トータルで必要な介護費用比較
介護期間は、人によって異なります。しかし平均とされているのは、4年半~5年程度だとされています。
半年未満で介護が終わる割合は6パーセント程度にしかすぎず、4~10年ほど続くケースがもっとも多いという統計が出ています。なお、4~10年の間、介護し続ける層は、全体の3分の1近くに上ります。
介護はある程度長期スパンで行うことになります。
「在宅介護にいくらかかるのか」「施設での介護にいくらかかるのか」は、ケースバイケースです。在宅介護の場合でも同居しているのか、光熱費は介護される側の負担とするのか、食費はどうするのか……などによって数字が変わってきます。
また施設を利用する場合でも、「どの施設を利用するか」によって金額は変わってきます。一般的に、特別養護老人ホームは安く(7~15万円程度)、有料老人ホームは高い(20~25万円)という傾向にあるからです。
今回は、
- 在宅介護で要介護3の場合で、介護サービスとオムツ費用などだけで出した数字
- 在宅介護で要介護3の場合で、光熱費なども含めて出した数字
- 比較的安めの特別老人ホームを使った場合
- 比較的高めの有料老人ホームを使った場合
の4パターンで平均額を求めます。
| 年間平均支出 | 平均期間 | 平均支出合計 |
---|---|---|---|
在宅介護 | 72万円~142万円 | 5年 | 360~710万円 |
施設での介護 | 72万円~420万円 | 5年 | 360~2,100万円 |
※施設での介護の場合は、入居一時金が必要になることもある。
「在宅介護」か「施設での介護」の選択は総合的な負担を考えよう
在宅介護と施設での介護を比較した場合、費用面では在宅介護の方が安くなります。一方で、特別養護老人ホームに入ることができればかなり費用面の負担を軽減することができます。
しかし、特別養護老人ホームへの入居は、全国で約30万人の待機者がいる状況です。また、緊急性や介護度が低かった場合には優先順位は高くないと判断されて入居することができません。そして、特別養護老人ホームには医療体制に限界があります。
このようなことを踏まえると、費用面だけで考えた場合は「家で介護をする」という選択肢をとらざるを得ないケースも多いといえるでしょう。
ただ、在宅介護は精神的・肉体的負担が極めて大きいものです。
メインとなって介護を担う人の負担が大きいのはもちろんですが、周りの家族が介護を軽くみている場合はこの心労がさらに強くなります。
特に、介護される側に暴言や暴力がみられた場合は家で看つづけることが難しくなることもあります。
実際、介護士1人・看護師1人、残りの家族も介護に相当に理解がある……という状況であっても、家で看つづけることが難しくなった事例もあります。
そのため、「家でみるか、それとも施設を使うか」は、
- サポートできる人間がいるか
- 収入が確保できるか
- 適切な介護サービスを受けられるか、またそれを受けることに反対している人間はいないか
などを見て、総合的に判断していく必要があるといえます。
介護費用の負担を軽減できる方法
介護費用は多くのご家族にとって大きな負担となり得るものですが、同時に、さまざまな公共福祉制度があるということも忘れてはいけません。
「たとえ自己負担分が1割~3割であったとしても、先が見えない状態でいつまでも払い続けるのは苦しい」と考えるご家族のために行われる費用軽減・費用支給の制度として、下記の5つがあります。
- 高額医療・高額介護合算制度
- 高額介護サービス費支給制度
- 施設の食費・居住費(滞在費)が軽減される制度
- 社会福祉法人などが費用を軽減する制度
- その他の公共の制度
ひとつずつ見ていきましょう。
高額医療・高額介護合算制度
高額医療・高額介護合算制度とは、「医療サービスと介護サービスの両方を利用する世帯が、非常に高額な医療費・介護費を支払った場合、その支払いを軽減する」という制度です。
医療と介護は、非常によくセットになります。がんの治療を受けながら介護サービスを受ける人などもいるため、このような世帯に対して援助をしようとする考え方が高額医療・高額介護合算制度です。
高額医療・高額介護合算制度は、
- 収入(所得)
- 年齢
によって変わってきます。これは開きが非常に大きく、収入による差で10倍ほどにもなります。
ただ、いずれの場合であっても、高額な医療費・介護費に苦しむ人をサポートしてくれるサービスであることは間違いありません。
なお、下記の「高額介護サービス費支給制度」は月額で求められますが、高額医療・高額介護合算制度の場合は年間の負担額です。
引用:板橋区「高額医療・高額介護合算制度の概要」
高額介護サービス費支給制度
「高額介護サービス費支給制度」とは、「1か月の間に使った介護の費用が一定を超えたとき、その一定のラインを超えた金額を補助する」というものです。
日本には医療のための費用補助として「高額療養費制度」がありますが、感覚としてはそれに近いものかもしれません。
たとえば、「1か月にかかった費用が30万円だった」などのようなとき、この金額をそのまま払うのはご家族にとって大きな負担です。そのため、介護にかかる費用の上限を定め、それを超えた分は公的な機関が補助しよう……としました。
「高額介護サービス費支給制度」のポイントは、「介護の総額ではなく、自己負担分の費用負担の合計」で求められるということです。
つまり、まずは介護保険による自己負担分の軽減があって、さらにそのうえで「上限を超えた分が支払い対象外とする」という高額介護サービス費支給制度のサポートを受けられるということです。なお、介護保険による自己負担分の割合は、1~3割となっています。
高齢者のための施設に入所した場合、特別養護老人ホームや介護老人保健施設ならば入居後の賃料などを補助してもらえます。ただし、有料老人ホームの場合は対象外です。
対象者 | 上限額(月額) |
---|---|
現役なみの所得者に相当する人がいる状態 | 44,000円(世帯) |
世帯のだれかが市区町村民税を課税されている状態 | 44,000円(世帯) |
世帯のだれ1人として、市区町村民税が課税されていない場合 | 24,600円。また、前年の合計所得金額と公的年金収入額の合計が年間で80万円以下の個人の場合は15,000円 |
生活保護受給者 | 15,000円(個人) |
参考:厚生労働省「月々の負担の上限(高額介護サービス費の基準)が変わります」
施設の食費・居住費(滞在費)が軽減される制度
食費や居住費(滞在費)も、施設を利用することでかかります。ショートステイなどは介護保険のおかげでかなり費用が抑えられていますが、「負担限度額」として1日にかかる費用の上限額を定めた制度も利用されています。
ただしこの制度が使えるのは、「入ってくる収入(所得)や貯金が一定金額以下」の世帯の場合です。
「収入(所得)や貯金が一定金額以下」としていますが、そのなかでも、収入(所得)には違いがあります。
このため、「施設の食費・居住費(滞在費)が軽減される制度」においても、自己負担限度額の上限は変わってきます。
ただ、居住費(滞在費)としては最低で0円・食費300円(老齢福祉年金の受給者であり、かつ世帯全員が住民税非課税もしくは生活保護を受けている場合。また、利用するのが多床室の場合)~最高で1,310円・食費650円(世帯全員が非課税者だが、所得の合計額などが80万円を超える場合)が限度額として定められています。
なお上記に該当しない場合であっても、「2人以上の世帯であり、1人が施設に入居している。その費用を負担するのが著しく大変である」と認定された場合はこの制度が適用されることもあります。
社会福祉法人などが費用を軽減する制度
社会福祉法人などが費用を軽減する制度を、「利用者負担軽減措置」といいます。この利用者負担軽減措置は、生計を維持するのが大変な所得の低い人や生活保護世帯の負担を減らすことができるものです。
大きな注意点として、この制度はあくまで「社会福祉法人が主体となる」というものがあります。
つまりこの利用者負担軽減措置を受けられるかどうかは、利用先の社会福祉法人がこの制度を申告しているかどうか(申告先は地方自治体)によって変わってくるのです。
そのため、この利用者負担軽減措置を利用したいのであれば、「その社会福祉法人がこの制度を実施しているかどうか」を確かめることが前提となります。なおこの確認は、各自治体の福祉課で行えます。
対象となるサービスは多岐に及んでいます。訪問介護や通所介護などから定期巡回サービスなども対象となります。
負担軽減額は、4分の1あるいは2分の1です。また生活保護受給者については自己負担額が発生しないようになっています。
なお収入に関しては150万円以下(単身。1人増えるごとにプラス50万円)以下が基本となります。ただしこれを満たしていても、預貯金額や資産の状況に応じて適用されることもあります。
その他の公共の制度
その他の公共の制度として、
- 家族介護慰労金
- ホームヘルプサービス等の利用者負担の助成
の2つがあります。それぞれ解説していきます。
家族介護慰労金
要介護4あるいは5で、かつ市町村民税非課税世帯で生活しているご年配の人が、1年間にわたり介護保険サービス(※ただし、1年に1週間程度のショートステイは除く)を受けなかった場合に支給されるお金です。
このお金はメインで介護をしているご家族に対して支払われるものです。金額は10万円~12万円で、自治体の管轄となります。ただし、自治体ごとで考え方が異なるので確認する必要があります。
また、90日以上入院していた場合は使えないなどの決まりがあるうえ、もともと生活に余裕のある世帯の場合は原則として支給されません。
ホームヘルプサービス等の利用者負担の助成
生活保護を受けていない人であり、かつ住民税非課税世帯に対して出されるものとして、「ホームヘルプサービス等の利用者負担の助成」があります。これは、もともと1割負担で受けられる訪問介護・訪問看護などの自己負担金を、さらに軽くするための制度をいいます。
これも自治体の管轄となるため、詳細は各自治体に問い合わせてください。
介護の費用を工面する方法
これらの制度をフル活用しても、または世帯の収入などの条件によって活用できない状態であるために、介護費用のねん出が難しい……というケースもあるでしょう。
ご家庭ごとによって状況は異なるため、「これらの制度があるから大丈夫」「本当に生活に困窮している人は、自治体からの補助が受けられるから問題ない」とまでは言い切れないのです。
そのため、それ以外の「介護の費用の工面をするための方法」を知っておくことも重要です。
世帯分離
世帯分離とは、簡単にいうのであれば、「1つの世帯を2つ(以上)の世帯に分けること」をいいます。
日本では住民票による管理が行われていますが、この住民票に登録されている世帯を2つ(以上)に分けるのです。
たとえば、以下のようなやり方です。
【分離前】 | 【分離後】 |
|
|
この「世帯分離」はそれほど難しいものではありません。「それぞれの世帯主が独立した家計であること」を示して手続きをすれば完了します。
上記で述べたように高額介護サービス費制などは、世帯の所得(収入)によって限度額が決まっています。つまり、世帯を分けて世帯の所得(収入)を押さえることで、支援を受けやすくなります。
ただ、国民健康保険の額も変動することになるので注意しましょう。下がることもありますが、上がることもあります。また、例えば「妻と子の配偶者が2人とも要介護状態である」などの場合は、利用料の合算ができなくなるため、結果的にマイナスになる可能性もあります。
自治体の融資
自治体で、「介護のために仕事を休んだ人などについては、自治体から融資を行いますよ」と制度を提案しているところもあります。
内容や名称は自治体によって異なるので、鳥取県のものを例に説明します。鳥取県では、「鳥取県育児・介護休業者生活資金融資制度」としています。
鳥取県育児・介護休業者生活資金融資制度では、「育児や介護のために休んだ人1人に対して、100万円までの融資をおこなう」としています。これは非常に金利が安く、連帯保証人をつける場合は年に1.0パーセントで金利が固定されます。また、返すための期間も長く設けられており、5年以内に返せばよいとされています。加えて、育児・介護で休業している間は元金が据え置きとなります。
もちろんこれは「融資」であって、「お金をもらえる制度」ではありません。しかし一般のローンに比べて破格といっていいほど金利が安く、返済期間も長くとられているというメリットがあります。
「介護のために仕事を辞めると行き詰まる」ともいわれていますが、この制度は、そんな「行き詰まり」を少しでも解消するためのものといえるでしょう。
生活保護
生活保護の受給者であるとされた場合、介護にかかる費用が大幅に軽減あるいは無料になります。生活保護者の場合は介護を受けるための費用の自己負担額が1割となりますが、それも生活保護からの給付となります。
生活保護受給者でも介護保険料を支払う必要はありますが、これも非常に安くなるため(一般的な世帯の4分の1程度)払いやすくなっています。またさらにここに生活扶助費として介護保険を払うためのお金が上乗せされるため、実質的な負担は0となります。
ただし、生活保護はだれでも受けられるものではありません。
- 預貯金や資産がない(あれば売却し、生活費に充てる)
- 働けないあるいは働く能力がない
- 年金や手当など、あらゆる制度を使っても生活ができない
- 親族などからの援助を受けることもできない
- そのうえで、最低生活費と比較して、収入がそれに満たない場合
のみ、生活保護が受給されます。
「世帯分離」と混同してはいけない点として、「単純に『その世帯の収入が低い』だけでは生活保護は受けられない」という点が挙げられます。常識的に見てその「世帯分離をした家族」が援助・介護ができると考えられた場合は、生活保護を受けることはできません。
リバースモーゲージ
リバースモーゲージとは、「自宅を担保として、お金を借り入れること」をいいます。そしてお金を借り入れた人が亡くなった場合、担保となっていた自宅を貸主が処分あるいは運用をし、借入金を返す……といったシステムです。
「家に住み続けながらお金を借りられる」というメリットがあります。また住宅ローンが残っている場合も、返す必要があるのは利息分だけとなり、元金を返す必要がなくなります。
将来的には有料老人ホームに入りたいと考えている人の場合、リバースモーゲージを利用してお金を借りてそれを利用して有料老人ホームに入る……というやり方をとることもできます。
ただしリバースモーゲージにもデメリットはあります。
そもそもリバースモーゲージは、「担保となる家に資産価値があること」が前提です。そのため資産価値のない(あるいは少ない)家の場合は、これを利用できません。またリバースモーゲージは変動金利であることが多く、不安定な金融商品であるともいえます。
加えて、本来はうれしいはずの「長生き」によって、借入額が融資限度額を超過してしまう可能性もあります。
またこの方法をとった場合、子どもに家を資産として残すことはできません。
介護の費用について相談できる窓口
介護保険の費用は、さまざまな制度を利用することで負担分を軽くすることができます。しかしそのすべてを把握し、的確に判断し、滞りなく運用していくことは困難です。どうしてもケースバイケースのところがありますし、専門的な話にもなってきます。
そのため、現在はさまざまな窓口が用意されています。
市区町村の窓口
役場にあるもので、相談しやすいのがメリットです。「福祉課」「介護保険課」などがあります。ここに相談することで、地域包括支援センターなどを紹介してもらえます。わからないことがあったらまずはここに相談しましょう。
地域包括支援センター
ご年配の方の在宅生活を支援することを目的としているもので、さまざまな機関と連携して援助をしていってくれます。なお、要介護認定の申請受付の窓口はこの地域包括支援センターです。
社会福祉協議会
サービスはそれぞれの社会福祉協議会で異なります。ただ、弁護士による相談などをしているところもあるので、まずは「何をしてくれるか」を確認してみてください。
保健所・保健センター
医療関係の相談を受け付けています。特に「心の健康」に関する相談を積極的に受け付けているので、介護疲れなどの相談もしてみるとよいでしょう。
国民健康保険団体連合会
正しく正確な情報を発信するとともに、「介護事業者との間でトラブルが起きた」などの相談にも乗ってくれます。
1人で抱え込まず、まずは公的な窓口で相談をしてください。
最後に~介護の大変さを埋めるためにお金を使うことの意味とは
介護は非常に難しく大変なものです。肉体的な疲労や金銭的な負担だけでなく、「元気で頼りがいのあったあの人が、どうしてこんなことに」と思う瞬間は必ず来ますし、認知症の場合は特にこの苦しみは大きくなります。
「母親が看護師で長兄が介護福祉士、父親は介護に非常に理解があり高収入。長女は認知症を患った祖母によく付き添う。親戚は金銭的な援助は惜しみなく行い、母親をねぎらい、1年間に数度は母親を趣味の山登りに1人で行かせていた」という恵まれた実際のケースであっても、メインとなって介護を行う母親の心労は深いものでした。
このときに悩みの多くを解決したのが「お金を使って利用する介護サービス」でした。介護は長期化する可能性もあるため、お金を使うことにためらいを覚える人もいるかもしれません。
しかし長期間にわたる可能性があるからこそ、お金で解決しストレスを溜めないようにすることが大切です。
そのために専門家がいて、そのためにお金があります。お金を使って介護を外注することは決して悪いことではありません。大切なのはその費用をどう軽減するかです。
最後に20年以上も介護福祉士としてを紹介します。
「愛情があってもできないことはたくさんあります。ストレスフルな介護は、愛情さえも破壊します。だからお金を使ってプロに頼ってください。そのために私たちがいます」
この記事のまとめ
▽介護認定と介護レベル
- 介護においては、まずは「介護認定」が重要となってくる
- 介護認定で定められた介護レベルによって、受けられる支援が変わってくる
▽介護保険の利用
- 介護保険によって自己負担金が減らせる
- 利用できるサービスは多岐に及ぶ
▽在宅介護の場合の費用
費用の平均
要介護度 | 平均支出/月 |
---|---|
要介護度1 | 33,000円(内、26,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度2 | 44,000円(うち、30,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度3 | 60,000円(うち、35,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度4 | 59,000円(うち、42,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
要介護度5 | 74,000円(うち、53,000円が介護サービス以外にかかる費用) |
実際の費用の内訳
介護施設 | 在宅介護 | ||
---|---|---|---|
居住費 | 6万8,000円 | ― | ― |
介護サービス料 | 1万9,980円 | 介護サービス料 | 2万7,048円 |
― | ― | 月額サービス利用料・超過分 | 7,280円 |
― | ― | 福祉用具レンタル(9割給付) | 5,000円 |
食事(30日計算) | 5万5,000円 | 食事(30日計算) | 5万1,000円 |
― | ― | 光熱費 | 1万円 |
その他(管理費・娯楽など) | 5,000円 | その他 | 2万8,000円 |
合計 | 14万7,980円 | 合計 | 11万8,328円 |
―引用:みんなの介護「【よくわかる】在宅介護にかかる費用は?老人ホームとの比較表」
▽施設利用の場合にかかる費用
要介護度 | 平均支出/月 |
要介護度1 | 105,000円程度 |
要介護度2 | 107,000円程度 |
要介護度3 | 109,000円程度 |
要介護度4 | 111,000円程度 |
要介護度5 | 113,000円程度 |
例:
- 居住費・・・35,000円程度
- 介護サービス料・・・21,000円程度
- 食事(朝・昼・夕)・・・42,000円程度
- その他・・・11,000円程度
これらが合わさって、「109,000円」となります。
▽トータル費用
一般的な内訳は以下の通り
| 年間平均支出 | 平均期間 | 平均支出合計 |
在宅介護 | 72万円~142万円 | 5年 | 360~710万円 |
施設での介護 | 72万円~420万円 | 5年 | 360~2100万円 |
※施設での介護の場合は、入居一時金が必要になることもある。
▽介護費用の負担を軽減する方法
- 高額医療・高額介護合算制度や高額介護サービス費支給制度などを利用する
- 世帯分離や自治体の融資、生活保護などを受ける
- 相談できる窓口に掛け合い、利用できる制度がないかを相談する
▽最後に
- 介護のためにお金を使うことは、決して悪いことではない
- 介護を外注したり、旅行に行ったりして介護のストレスを溜めないようにすることが重要
- 介護は長期間にわたることが多いので、周囲の理解は必要不可欠
監修者コメント
監修者
終活・葬送ソーシャルワーカー
吉川美津子
介護サービスには、介護保険を利用するサービスと保険外サービスがあり、それぞれどのように活用するかで費用や内容が異なります。介護度に応じて選んでいくわけですが、すべての人がいきなり介護度が上がるわけではなく、脳血管疾患等の疾患を除いて、ゆるやかにADL(日常生活動作)が落ちていくものです。自宅に住み続けるのか、施設等を利用するかによっても異なりますが、まずは本人の意思を尊重してみましょう。介護が必要になったからといって、いきなりフルサービスを受けるのではなく、できるだけ残存能力を活用して自分のことは自分でできるように周囲はサポートしていくようにしましょう。認知症の場合は、暴言や暴力行為が行われることもあり共に生活することが困難になることがあるかもしれません。徘徊が多い人なら、事故に巻き込まれる可能性もあるでしょう。どのような介護がベターか、本人の性格や症状によっても異なります。