ペットのお墓・葬儀事情
9月は動物愛護月間で、環境省は9月20日から26日を「動物の愛護と適正な飼養についての理解と関心を深める」ために、動物愛護週間として定めています。最近ではペットも家族の一員として考える人が多く、一般社団法人ペットフード協会の調査によると、ペットにかける支出は年々増加しています(「令和元年 全国犬猫飼育実態調査」)。
「大切な家族だからこそ人間と同じように弔ってあげたい」葬儀やお墓などのペット供養の需要は年々高まっており、さまざまなペット供養のアイテムも見られるようになりました。
大切なペットの命をどのように見送り、供養するべきか。ペット供養や霊園の実態をご紹介します。
ペットの葬儀ができる場所
息を引き取ってしまった大切なペット。いったい葬儀をどこに依頼すればいいのでしょうか。選択肢としてあがるのは、ペット供養を行っている寺院、民間のペット葬儀社、そして行政です。
お寺によるペット供養 手厚い読経が大きな安心感につながる
東京都墨田区両国にある回向院は、まさに動物供養の先駆けの寺院です。そもそもは江戸時代の「明暦の大火」で亡くなった10万8千人にも及ぶ死者供養のために建てられました。その後さまざまな無縁仏や水子、そして当時から動物供養も行うお寺としても知られ、境内にはいまでも「猫塚」「唐犬八之塚」「オットセイ供養塔」などの供養碑が並びます。江戸時代の人たちも動物を大切に供養していたことが伺え、回向院では現在でも、ペットの火葬、納骨堂や永代供養墓への遺骨の安置も受け付けています。
また、世田谷区上馬にある感応寺は「猫寺」の愛称で知られるペット供養のお寺。人の供養よりもペット供養の方が圧倒的に多いといいます。葬儀、お墓、納骨堂、法要、さらには自宅で安置できるコンパクトなお墓も販売しています。
僧侶による手厚い読経や供養は、飼い主の大きな安心感につながります。ペット供養を受け入れる寺院は日本全国にありますが、あくまでもごく一部に限られます。人の供養と動物の供養を一緒にすることへの忌避感はいまだに強く、また、周辺寺院の目や檀家の反発からペット供養をしたくてもできないというお寺側の本音も聞かれます。感応寺の場合は、もともと檀家のいないお寺だったからこそペット供養に踏み切れたそうです。
民間のペット葬儀社は玉石混交 業者選定は慎重に
民間業者による参入も相次いでいます。ペット葬儀や霊園を行う事業所は全国で約800以上にも及ぶと言われていますが、国レベルの法規制がなく、業者の質は玉石混交です。最近では大手企業による参入も見られ、今年の8月1日にはスーパー大手のイオンもペット供養のサービスをスタート。東京と兵庫の寺院や動物霊園と提携して行うペットの永代供養、さらには海洋散骨や手元供養品の販売を行います。
民間のペット葬儀社は霊園を保有する業者と移動火葬業者のいずれかに分かれますが、明確な法整備がないこと、火葬炉さえ持てば誰でも参入できることから、特に後者はトラブルが多く「火葬中に追加料金を請求された」「ペットと違う動物の遺骨を返された」などの苦情も挙がっています。一部、自治体独自の条例化の動きも見られますが、後悔のない供養のためには、飼い主による慎重な業者の選定が求められます。
自治体によるペット火葬は小動物の「焼却処分」
行政はペット供養についてどのように向き合っているのでしょうか。ペットの火葬を引き受けてくれる公営の火葬場は全国的に見てもほんのひとにぎりで、火葬をしてくれたとしても遺骨を返してくれないところの方が多く、人の火葬のように手厚く対応してもらえないのが現状です。これはペットに対し、『動物愛護管理法』では命あるものとして大切に取り扱うようにしなければならないとしている反面、『廃棄物処理法』では「一般廃棄物」と定義していることも考えられます。
なかには、尊厳ある対応をしてくれる自治体もあります。横浜市の市営戸塚斎場では個別火葬を行ってくれますし、兵庫県姫路市では遺骨を市営霊園内の動物供養碑に納めてくれます。
ペット専用霊園
ペット霊園には、火葬炉、お墓、納骨堂、お別れ室、などの設備を備えているところが多く見られます。移動火葬車では火葬しかできず、また寺院の場合は火葬炉がないケースがほとんどですが、ペット霊園であれば火葬から埋葬を一カ所でできるところもあります。
ペット霊園の検索サイトも充実しています。まずはお住いのエリアにどのようなペット霊園があるか調べてみるとよいでしょう。
ペット供養できるを探す
ペットと一緒にお墓に入りたい人は4割
ライフドットが直近3年間でペット(犬・猫限定)をなくした20代から70代の男女660人に調べたところによると、亡くなったペットを火葬する人は8割以上、ペットと一緒にお墓に入りたい人は4割以上にのぼりました。亡くなったあともペットと一緒にいたいと考える人が多いようです。
人とペットが一緒に入れるお墓が増えている
従来は、人のお墓にペットが一緒に入ることはタブーとされてきましたが、近年は考え方も変わってきています。世田谷区上馬にある感応院では、同じ区画の中に人の遺骨を納めるカロートと、ペットの遺骨を納めるカロートを分けて設置した「プラスペット墓地」を販売しています。また、メモリアルアートの大野屋もペットと飼い主が同じ区画に入れる「Withペット」を手がけます。
仏教の考えに基づき、昔は嫌がられることが多かった
仏教では六道輪廻(ろくどうりんね)の教えから、人間が生きる人間道と、動物が生きる畜生道を分けて考えていました。いまでもそのような考えの人もいらっしゃることから、メモリアルアートの大野屋は「Withペット」の区画と一般墓区画のゾーンを分ける配慮をしています。
手元供養品も充実
最近では遺骨を霊園に納めずに、身近な場所に置いておきたい人のための手元供養品も充実しています。
仏壇や位牌にとどまらず、遺骨を納める骨壷やペンダント、フォトフレーム、ペット用の線香やローソクなど、亡くなったあとも愛するペットを身近に感じることができます。こうした商品が人気なのも、やはり人々がペットをそれだけ大切に考えていることの表れなのでしょう。
まとめ
古くから動物供養を行ってきた日本人ですが、人とのつながりが希薄化していく中で、家族の一員であるペットへの想いは格別でしょう。死後も大切に供養したいと希望する人が増えています。
本記事を執筆するにあたり、浄土宗僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳さんの『ペットと葬式 日本人の供養心をさぐる』を参考にさせていただきましたが、鵜飼さんご自身も著書の中で、「人間とペットとの関係性は、時代や社会構造と共に変わる。ペットの死の受け皿になるべき宗教界は、真剣にその死後を議論する時機にきていると思う」と説かれています。
宗教界によるペット供養への理解と手厚いケア、さらには国による法整備が求められます。これらが実現することで、ペット供養はいまよりもさらに充実したものになることでしょう。