樒(しきみ)ってどんな植物?葬儀のときに使われる特別な植物について

【樒】アイキャッチ

この記事ではこのような疑問を解消!

  • 「樒(しきみ)ってよく聞くけれど、どんなものか分からない」
  • 「樒(しきみ)って榊(さかき)とどう違うの?」
  • 「樒(しきみ)は葬儀のどんな場面で使われているか知りたい」
  • 「樒(しきみ)を使った祭壇はある?」
  • 「樒(しきみ)の取り扱いはどうすればいいの?」

葬儀に際しては、どのような宗教であっても「植物・花」をほぼ確実に用いることになります。その植物・花の種類は、宗教や故人やご遺族の考え方によって異なってきますが、葬儀を彩るために、あるいは死者を慰めるために、よく使われています。

今回はそのなかで、「樒(しきみ)」を取り上げます。

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この記事の目次

  1. 葬儀や仏花で選ばれる「樒(しきみ)」の特徴
  2. 樒(しきみ)と仏教の関り
  3. 樒(しきみ)を供える仏事のシーン
  4. 板樒(いたしきみ)や紙樒(かみしきみ)とは樒の代わりに用いられるもの
  5. 地域差がある!樒のお供えシーン
  6. 樒(しきみ)には毒性がある!匂いも強いので取り扱いには気をつけよう
  7. 榊(さかき)と混同されやすい!榊の特徴と違うところ
  8. まとめ

葬儀や仏花で選ばれる「樒(しきみ)」の特徴

実のなった樒

「樒(しきみ)」とは、葬儀のとき、主に仏教において使われる花・植物です。
美しい緑色をしている常緑小高木(じょうりょくしょうこうぼく)に分類されるものであり、10センチ程度の大きさに育ちます。

春になれば美しく可愛らしい黄色い花を咲かせますが、仏事は一年中どこの期間でも起こるものですから、「花が咲いたタイミングで使う」という決まりはありません。多くの場合、花をつけていない状態の樒(しきみ)を使うことになるでしょう。

樒(しきみ)には「猛毒・援助する・甘い誘惑」といった刺激的な花言葉がありますが、仏事においてはこのような花言葉はほとんど無視されています。花言葉の概念ができるよりもずっと前から樒(しきみ)は仏事に使われてきたと思われているので、特に気にする必要はないでしょう。

樒(しきみ)は非常に特徴的な香りを放つことでも有名です。この「香り」は、故人を獣や邪気から守るためのものとして昔から重んじられてきました。

樒(しきみ)の名前の由来

樒(しきみ)は、「シキビ」と呼ばれることもあります。また漢字では「櫁」「梻」とされることもあります。なおこの「漢字」にはなかなか面白い話もあります。

樒(しきみ)と榊(さかき)はしばしば混同されますし、どちらがどちらの宗教に用いられるか分からなくなってしまう人もいますが、漢字にしたときに「佛(ほとけ)」が木編につくのが仏事に使う樒(しきみ)、漢字にしたときに「神」が木編につくのが神式の葬儀に使う榊(さかき)、と覚えるのがよいとされているのです。
ちなみに、「梻」は、国字(日本が独自に開発した漢字)だといわれています。

また、樒(しきみ)はその強烈な香りから、「香の花(こうのはな)」「香芝(こうしば)」「香の木(こうのき)」などと呼ばれることもあります。また、「仏前草(ぶつぜんそう)」と呼ばれることもあります。

ただここでは、特筆すべき理由がない限り、「樒(しきみ)」の表記を使っていきます。

植物の名前の由来には諸説ありますが、「樒(しきみ)」と名付けられたのは、「悪しき実(あしきみ)」からだといわれています。「あしきみ」の「あ」をとって、「樒(しきみ)」と呼ばれるようになったとされているのです。

樒(しきみ)は花~実全体が毒を持っているため、このような呼称で呼ばれたのだと考えられています。仏事に使われる花・植物が、「悪しきもの」として解釈されていたというのは、なかなか面白い話なのではないでしょうか。

また、ほかの説としては、「敷き実」「臭き実」「重実(しげみ)」「(一年中芽を出す)四季芽」からというものもあります。実のなっている様子や芽の様子から、このように名前を付けられたと考える話もあります。

樒(しきみ)と仏教の関り

樒(しきみ)は、仏教と深い関わりがある花・植物です。一般的な仏式の葬儀をあげようと思ったのなら、一度は目にすることになる花・植物といってもよいほどです。
では、なぜ樒(しきみ)は仏教においてここまで重んじられるのでしょうか。

それにはいくつかの理由があります。

1.仏様のいらっしゃる世界で咲く花に似ている

仏様のいらっしゃる世界には、青蓮華(しょうれんげ)という花が咲いているといわれています。これはハスの一種であり、非常に美しい青~青白色を持っている花です。優美なラインを描くこの花は、細く長い葉っぱを持っていることでも知られています。

この青蓮華は、昔から「仏様の瞳(の様子)」を例える表現として用いられてきました。
樒(しきみ)は、この「青蓮華」の葉っぱとよく似た形をしていると当時の人達は考えていました。

また、樒(しきみ)も青蓮華も、仏様のいらっしゃる天竺(てんじく。現在のインド)に生えている花・植物です。故郷を同じくするこの2つの植物であること、また樒(しきみ)を日本にもたらしたのは鑑真(律宗の開祖である僧侶。

元々は唐の僧侶であったが、日本に仏教を普及させるために日本にやってきた。6度目の渡航でようやく成功し、両目の光を失いながらも、日本で仏教を広めることに成功した)であることもまた、「樒(しきみ)が仏教の花・植物」になった理由といえるでしょう。

ちなみに、この「鑑真が樒(しきみ)を持ってきた」という説は、江戸時代に出された書籍である「眞俗佛事編(真俗仏事編・しんぞくぶつじへん)」で見ることができます。ここで、「樒(しきみ)は、天竺から日本に、鑑真によってもたらされた。

その形は、天竺の池の青蓮華に似ている。そのため、これを仏様に供す」という文章を見ることができます。

2.香りによって獣を退けることができたり供物にできたりすると考えられたから

ただ、昔は今に比べるとご遺体を守ることが非常に難しく、また香り高い花というのもあまりありませんでした。

そこで用いられたのが、樒(しきみ)です。樒(しきみ)は毒性が強く、強烈な香りを放ちます。このため、この香りによって獣を遠ざけることができると考えられたわけです。また、ご遺体が腐敗していくときに生じる臭いをわかりにくくさせるという役目も持っていました。

日本(仏教)に限らず、「香りを供える文化」は、世界各国さまざまな宗教にあります。樒(しきみ)もまた、「香りを供える」といった役目を担っていたとされています。
また花・植物の香りがそれほど多様化していなかった昔は、樒(しきみ)の持つ個性的な香りが、仏様や故人に捧げる香りとして相応しいと考えられていたのです。

このように樒(しきみ)が仏事に用いられるようになったのは、樒(しきみ)の持っている「香り」からだと考える説もあります。

3.捧げる花・植物に困っていたから

樒(しきみ)は一年を通して美しい緑色の葉っぱをつけています。花がつくのは春限定ではありますが、冬場でも雪山のなかでも美しい緑色を放つ樒(しきみ)は、仏様・故人の心を慰めるのにふさわしいものだと考えられました。

現在でこそさまざまな花が一年を通して手に入るようになっていますが、昔はそうではありませんでした。今以上に花は「季節物」でしたし、冬場などは美しい花を手に入れるのが難しかったのです。
そんなときに目を向けられたのが、「樒(しきみ)」です。


「季節を問わず、亡くなった人に美しい花・植物を捧げたい」という気持ちから、樒(しきみ)は仏事に使われる花になったという解釈もあります。

4.樒(しきみ)は長持ちするから

樒(しきみ)は、非常に長持ちをする花・植物でもあります。水を張った花瓶にさしておくだけで、数か月間ももった、とする意見もあります。このため、手間暇をかけずとも美しさを維持してくれる花・植物でもあります。

さらに樒(しきみ)は、花瓶の水を腐りにくくする効果もあるとされています。季節の花と一緒にさしておくと、花の管理もしやすいとされています。このようなところに、昔の人たちは、「仏様に捧げるにふさわしい、特別な力を持っているもの」という印象を抱いたのかもしれません。


このような理由で、樒(しきみ)は昔から仏事において非常に大切にされてきました。

樒(しきみ)と日蓮正宗

樒(しきみ)は仏事全体において非常に重要な役目を持つものではありますが、「日蓮正宗(にちれんしょうしゅう)」と創価学会(そうかがっかい)においては特に特別ない実を持ちます。

ほかのどのような宗派であっても、仏壇やお墓にはよく生花を供えます。しかし日蓮正宗や創価学会の場合は、生花を使わずに樒(しきみ)だけをお供えすることもあります(ただし、ほかの宗派であっても樒(しきみ)だけをお供えするということはあるでしょうし、日蓮正宗でも「生花は絶対に備えてはいけない」というものでもありません)。

これにはいくつかの理由があるとされています。

1.日蓮正宗が重んじる教典に、樒(しきみ)のことが書かれているから

意外に思われるかもしれませんが、在来仏教に分類される宗派であっても、「どの教典を信じるか」「どの教典を重んじるか」は宗派によって異なります。そして、日蓮正宗では、教典として「法華経(ほけきょう)」を重要視しています。

この法華経のなかに、「栴檀及び沈水、木樒並びに余の材(開結一一五頁)」という表記が出てきます。

このなかの「木樒」は樒(しきみ)をさしています。なお、栴檀は白檀を、沈水は沈香りのことをさしていると考えるのが一般的です。
教典にこの表記があるからというのが、日蓮正宗が樒(しきみ)を重要視する理由のひとつです。

2.久遠(くおん)の命の意味

「花はいつか枯れてしまうけれど、樒(しきみ)はなかなか枯れない。だから、樒(しきみ)に永遠の命を見る」という思想も、日蓮正宗にはあります。南無妙法蓮華経と唱えることで永遠の命を手に入れられると考える宗派であるため、「冬でも葉を落とさない樒(しきみ)」との親和性が高いと考えられています。また、樒(しきみ)の持っている植物としての強さをもって、「生命の強さ」を感じるという考え方もあります。

このような考え方から、日蓮正宗では樒(しきみ)に対して、ほかの在来仏教以上の特別な意味を見出します。ただ、ほかの仏教と同じように、「眞俗佛事編に取り上げられているから」「香りを供えるという考え方を持っているから」というのも、樒(しきみ)を重んじる理由のうちのひとつです。

樒(しきみ)を供える仏事のシーン

樒と数珠

樒(しきみ)は仏事において、とても大切にされるものです。そのため、さまざまなシチュエーションで樒(しきみ)が使われています。
ここからは、樒(しきみ)が使われる場面について取り上げていきます。

  • 葬儀会場の入口に供えられることもある
  • ご臨終~納棺のときに使われることもある
  • 枕飾りとしての樒(しきみ)
  • 樒(しきみ)と納骨~一本花について
  • 葬儀のときの供花として
  • お墓に供える仏花の束に使われる

それぞれのパターンについて見ていきましょう。

葬儀会場の入口に供えられることもある

樒(しきみ)は、葬儀会場の入り口に飾られることがあります。これは「樒(しきみ)における地方差」とも通じることですが、関西地方では会場の入り口に「門樒(かどしきみ)」として飾られることがあります。

また、「供花(くげ・きょうか。葬儀式場に送られる花のこと。花輪というかたちをとることもあるが、現在はスタンド付きの生花を選ぶケースが非常に多くなっている)」のかわりに、樒(しきみ)を送るやり方もあります。
関西地方においては、供花よりも門樒の方が格が高いと考える向きもあるため、このようになっています。

ただ、現在は「葬儀は小さな会場で、小規模で行う」という考え方が広まっています。そのため、供花はもちろん門樒も受け付けていない場合もあります。自分が贈る立場になった場合は、必ず葬儀会場に「贈ってよいかどうか」を聞くようにしてください。

樒(しきみ)は、「仏花」「お清め」によく使われますが、祭壇自体を作るときにも使われます。なおここで言う「祭壇」は、枕飾りなどではなく、通夜~告別式などのときに使われる、大きなメインの祭壇をいいます。

花祭壇に樒(しきみ)を入れる

祭壇のかたちが多様化していった現在、「花祭壇」と呼ばれるものが人気を博しています。これは、白木の祭壇などを使わず(ただし土台には白木祭壇と同じ物が使われていることも多い)、花だけで祭壇を作っていくものです。非常に華やかで可愛らしい雰囲気になることもあり、人気のあるかたちです。

この花祭壇を作るときに必要な「緑」を、樒(しきみ)からとることがあります。祭壇横などに樒(しきみ)を供えるわけです。華やかで上品なイメージを崩さないで、樒(しきみ)を取り入れることができます。

白木祭壇に樒(しきみ)を入れる

比較的よく見られるのがこのタイプだと思われます。白木の祭壇を中央にすえ、その周りを聞くや樒で作っていくというものです。なじみのある落ち着いた雰囲気になるのが特徴です。

「こんな花を配したいか」「樒(しきみ)はこんな風に置いてほしい」などのこだわりがあるのであれば、葬儀会社のスタッフにきちんと伝えてください。

樒をメインとした祭壇

ほかの2つの祭壇では「生花」が使われていますが、樒(しきみ)と白木だけで作る祭壇もあります。そこかしこに樒(しきみ)を配し、生花は入れないかたち(もしくはあってもごく少量)で作っていきます。

樒(しきみ)の緑と白木の白だけで構成された祭壇となるため、非常に厳かで荘厳な印象を抱かせます。凛々しい祭壇を作りたい人の場合は、このような「樒(しきみ)をメインとした祭壇」にするとよいでしょう。


ただ、祭壇のかたちや選択肢に、良い・悪いはありません。また、規模の大小で優劣が決まるわけでもありません。大切なのは、「故人はどのようにして送られたかったか」「家族(や親族)の気持ちはどのようなものか」だけです。

なお、「どんな祭壇にすればよいかわからない」ということであれば、葬儀会社のスタッフに相談してください。宗教・葬儀の規模・故人のお人柄をふまえたうえで、適切なアドバイスをくれるはずです。

ご臨終~納棺のときに使われることもある

納棺のときに、樒(しきみ)が使われる場合もあります。これは大きく分けて2つのパターンがあります。

1.末期の水を含ませる場合に使う

仏教においては、亡くなる直前(とされているが、現在は息を引き取った後に行われる場合も多い)に水を与えるという考え方があります。これは「死に水(しにみず)」「末期の水(まつごのみず)」と呼ばれるものです。

水は、割りばしなど着けた綿にふくませて与えます。ただこのときに、樒の葉を使用する場合もあります。末期の水は、本当に「水を飲ませるための儀式」ではなく、「仏事のうちのひとつ」とされていますから、仏教において重要視される樒(しきみ)が使われるのでしょう。
なお、菊の葉を使う場合もあります。

2.棺に納めるときに使う

もうひとつのやり方は、「棺に納めるときに使う」というものです。ご遺体の下に樒(しきみ)を敷くわけです。これは、腐敗臭を紛らわすためだったとされています。

ただ、現在はドライアイスやエアコンによって腐敗の進行を遅らせ、また臭いも軽減できるようになりました。そのため、この方法をとらないところもあります。実際、葬儀の現場にいた人でも、「一度も樒(しきみ)を敷いたことはない」としている人もいます。

枕飾りとしての樒(しきみ)

枕飾りとは、葬儀の場面においてもっとも初めに作られることになる祭壇です。その名前の通り、枕元に置かれる非常に小さな祭壇です。
宗派によって多少異なりますが、このときには、

  • 花瓶
  • 香炉
  • お供え物(これは、特に宗派によって大きく異なる)
  • 燭台
  • 線香

などが置かれます。花瓶に樒(しきみ)を入れるわけです。生花を入れるやり方もありますが、「故人を獣などから守り、清浄な状態に保つこと」を目的として、毒性と強い香りを持つ樒(しきみ)を捧げたとされています。

樒(しきみ)と納骨~一本花について

葬儀の場面においては、「一本花(いっぽんばな)」という単語も使われます。これはお釈迦さまの弟子が花を1本持ち歩いているときにお釈迦さまの入滅を告げられたことを由来とする単語だと考えられています。

一輪だけ選ばれるこの一本花には、仏教でおなじみの「菊」だけではなく、樒(しきみ)も使われます。一説によれば、「一本花として選ばれる確率が高いのは、菊よりも樒の方だ」ということでした。

一本花は枕飾りのときにも使う単語ですが、納骨のときにもよく使われる単語です。納骨をしたときに、花瓶に樒(しきみ)を一本花として捧げるわけです。

葬儀のときの供花として

「供花の代わりに樒(しきみ)を使うこともある」としましたが、「まったく生花を入れないで樒(しきみ)だけで作る場合」と「生花のなかに樒(しきみ)も入れて作る場合」があります。またこれは、「供花の代わり」と言うことが多いのですが、「樒(しきみ)で作るものも、まとめて『供花』と言う」としているところもあります。

ただ、いずれの場合でも、樒(しきみ)を頼みたいのであれば、「樒(しきみ)だけで構成する」「生花のなかに樒(しきみ)を入れてアレンジをしてほしい」「一段だけにする」「門樒として出したい」などのように、明確な希望を伝えることが重要です。

お墓に供える仏花の束に使われる

お墓に供える仏花の束に、樒(しきみ)が使われることもあります。樒(しきみ)だけで構成する場合もあれば、生花と樒(しきみ)を混ぜてお供えすることもあります。

納骨堂などに埋葬していれば別ですが、原則としてお墓は「外」にあります。強い香りを持つ樒(しきみ)は動物や虫よけにとして使えるものですから、お墓をきれいに保つために役立ちます。また、葬儀の席で樒(しきみ)が捧げられる理由同様、「お香」「場を清める」役目も持っています。

お墓に供える仏花の束に樒(しきみ)が使われるのは、このような理由からです。
なお、お墓に供えるときの仏花はご家族(多くの場合は喪家)が用意することになるかと思われます。

この場合、近所の花屋などに足を運び、「樒(しきみ)を使った仏花を作ってほしい」といえば、その通りにしてくれるでしょう。樒は一年を通して手に入れやすい花なので、それほど苦労はしないと思われます。

板樒(いたしきみ)や紙樒(かみしきみ)とは樒の代わりに用いられるもの

さて、樒(しきみ)という言葉がつく単語のなかには、「板樒(いたしきみ)」「紙樒(かみしきみ)」と呼ばれることがあります。これは、樒の一種類などではありません。「板樒」「紙樒」という「物」です。

板樒や紙樒は、板もしくは紙に名前を書きつけたものです。たとえば、新属の名前を書いたり、自治会の名前を書いたりします。そしてこれを葬儀式場の前に張り出すわけです。

実際には樒は使われていませんが、「門樒」と同じような意味を持つとされています。樒はどうしてもスペースをとるため、現在ではお断りされることもあります。
しかしこのような板樒・紙樒ならば邪魔にはなりません。このため、「植物としての樒は受け付けないが、板樒や紙樒ならば受け付ける」としているところもあります。

もっとも板樒や紙樒は、後に残るものではありません。1対で3000円前後すること、対してきちんとした植物の樒を使う場合でも5000円前後で済むことから、どちらを選ぶべきかなかなか悩みどころではあります。

ちなみに、もちろん板樒や紙樒も用いない地域もあります。

地域差がある!樒のお供えシーン

実も花もない樒

「樒の御供え」には、地方差があります。たとえば関西などでは、花輪の代わりに樒を利用するなどです。京都などでは特にこれがよく見られるとされています。門樒は花輪よりも格が上のものであると考えられています。

門樒も関西の文化ですから、関西と樒は密接な関係があるといえるでしょう。対して、「門樒はまったくメジャーではない」「長く葬儀会社にいても、扱ったことがない」という人もいます。

樒(しきみ)に限ったことではありませんが、葬儀における「常識」は地方さが非常に大きいといえます。そのため、「自分の常識」ではなく、「その地方の常識」に合わせた振る舞いをすることが非常に重要です。

樒(しきみ)には毒性がある!匂いも強いので取り扱いには気をつけよう

樒(しきみ)は、「悪しき実」と名付けられたこと、獣を近づけないほどの力を持つことからも分かるように、非常に強い毒性を持っている植物です。樒(しきみ)は、花も根も「アニサチン」という毒を持っています。実を食べると命を失ってしまうほどの強い毒性をしめします。
劇物としての指定を受けているたったひとつの植物である……といえば、樒(しきみ)の強い毒性がわかるでしょう。

ちなみに、樒(しきみ)と非常によく似た植物に、「トウシキミ」があります。これは八角にもつながるものです。こちら側には毒性がありませんが、トウシキミと樒(しきみ)を一緒にすることは極めて危険です。

特に実は強い毒性を持っていて、人を死に至らしめるほどの強さを発揮します。

その毒を表すエピソードのひとつとして、魑魅魍魎(ちみもうりょう)のエピソードがあります。死者を食べてしまう魑魅魍魎が、死者を守る樒(しきみ)の実を食べたことで退治されたというものです。

このようなエピソードもまた、樒(しきみ)が「死者を守るためのもの」とされている理由だと考えられています。かつて土葬であったころの日本では、現在以上に樒(しきみ)が重んじられていたと思われます。

実際に、現在も「死者の花」として名高いヒガンバナ(赤い花で、非常に強い毒性を持つ)と一緒に、ご遺体を守るために墓地に樒(しきみ)が植えられてきたという経緯もあります。

樒(しきみ)は葬儀の場面においてはよく見られる花・植物です。そして葬儀の場面では、お子さん連れのご家族もよくみられます。誤ってお子さんが樒(しきみ)を食べてしまわないかどうかをよく注意しておく必要があります。
実際に樒(しきみ)を食したことによる死亡例も報告されています。

榊(さかき)と混同されやすい!榊の特徴と違うところ

神式の儀式で使用される榊

樒(しきみ)とよく混同されるものに、「榊(さかき)」があります。これについて見ていきましょう。

※上の写真は「榊」です。

榊の特徴と名前の由来

榊は、神式の葬儀において非常によく使われる植物です。ツバキ科のサカキ属に分類されるものであり、「境の木(神様の住まわれる世界と人間の世界を隔てる木)」「栄える木(常緑樹であることからきている)」「神聖な木(賢木)」からきているともいわれています。

ちなみに榊は、厳密には「サカキ(本榊)」と「ヒサカキ」に分けられます。前者はサカキ属に分類されるもので、後者はヒサカキ属に分類されるものです。後者を特に「姫榊」として区別する場合もあります。

なお、榊は、こぢんまりとした可愛らしい白い花をつけます。

樒(しきみ)と榊の違い

樒(しきみ)と榊は両方とも美しい緑色の葉をつけます。また、どちらも祭壇を作るのに使われます。枕飾りに使われること、お墓に供えられることも共通している点です。ただ、一部の例外を除き、「樒(しきみ)は仏事に、榊は神式の葬儀に使われる」という違いがみられます。

神式の葬儀において榊を目にする機会は、仏事で樒を目にする機会よりもずっと多いかもしれません。なぜなら神式の葬儀においては、「玉串奉奠(たまぐしほうてん。祭壇に向かって玉串を捧げる行為のことをいう。

仏式の葬儀における「お焼香」にあたる儀式で、神式の葬儀全般においてみられる)」があるからです。このときに、紙垂(しで。紙)をつけた榊を祭壇に捧げることになります。これは仏式の葬儀においては見られないものです。

また、植物の形態としても異なります。樒(しきみ)は5枚の葉がついていますが、榊の場合は左右対称に葉がついています。樒(しきみ)に見られる独特な香りも、榊の場合にはみられません。

このように、樒(しきみ)と榊には明確な違いがあります。

現在でも樒(しきみ)を使う神社もある

一般的な知識としては、「樒(しきみ)は仏教のときに使われる花・植物、榊は神式のときに使われる花・植物」という理解で問題ありません。実際、葬儀の現場においては、これ以上の解釈がなされることはほぼありません。
ただ、もう一歩踏み込んでみてみると、面白いことも分かってきます。

神社の場合は榊を重んじますが、現在でも樒(しきみ)を神木として扱っている神社もあります。その代表例が、京都にある「愛宕山・愛宕神社(あたごやま・あたごじんじゃ)」です。比叡山とも並び称される霊山であり、多くの人の信仰の対象でもあります。

この愛宕山・愛宕神社では、樒(しきみ)を非常に大切にしています。火よけのお守りとして樒(しきみ)を用いており、守札にこれを結んで持って帰るのがよいとされています。持って帰った樒(しきみ)は、台所(昔ならばかまど)の上に置かれたり、葉っぱを燃やしたりしていました。

こうすることで火災から家や身を守ると考えられていたのです。このように言われるようになったのは、昔の女性が樒(しきみ)を打ってお金を得ていたことと繋がっていると考えられています。

また、もともと日本では、一時期は神道と仏教が分かちがたいものとして扱われていたということも、これに関係しているのかもしれません。それを証明するように、かつては愛宕山にもお寺があったと言われています。

なお、この「樒(しきみ)を使ったお守り・祈願」は、現在でも脈々と受け継がれています。

まとめ

「樒(しきみ)」とは、仏教の葬儀で非常によく使われている花・植物です。樒(しきみ)が仏教で尊ばれたのは、仏様の目に例えられる植物に似ていたからとも、鑑真和尚が伝えたからともいわれています。特に日蓮正宗では樒(しきみ)を重んじる傾向にあります。
日蓮正宗では、「教典に樒(しきみ)が扱われている」「冬でも葉を落とさない樒(しきみ)は、永遠の象徴である」として、ほかの宗派以上に樒(しきみ)を大切にしています。

樒(しきみ)は、仏教の葬儀においてさまざまな場面で使われます。

  • 葬儀会場の入り口に置かれる
  • 死に水をとるときに樒(しきみ)を使って水を含ませたり、納棺のときに樒(しきみ)を下に敷いたりする
  • 枕飾りとして使われる
  • 納骨のときの一本花として取り上げられる
  • 葬儀のときの供花として用いられる
  • お墓に供える仏花のなかに入れられる

などです。

樒(しきみ)は強い毒性を持っており、また非常に香りが高いものです。加えて、いつでも緑色の美しい葉っぱを持つことから、昔から重宝されてきたと考えられています。

強い毒性を持っているがゆえに獣や邪気を近づけさせませんし、いつでも美しい緑色の葉を持つことから冬場の葬儀のときにも活躍してくれます。また、その強い香りが仏様の食事となると解釈する向きもあります。

加えて、「腐敗臭を防げる」「傷みにくい植物であり、また水の腐敗を防ぐ」という実利的な魅力もあります。

この樒(しきみ)を使って作られるものに「仏式の祭壇」があります。花祭壇に樒(しきみ)を入れて作ることもできますし、白木祭壇に樒(しきみ)を入れることもできます。また、樒(しきみ)をメインとして祭壇を作ることもできます。
どのような祭壇にするか、樒(しきみ)の割合はどれくらいにするかは、葬儀会社のスタッフと相談して決めていくとよいでしょう。

日本全国、どこの仏式葬儀でもよくみられる「樒(しきみ)」ですが、特に関西方面では有名です。「葬儀会場の外に樒(しきみ)を飾る=門樒」についてはすでに触れましたが、それ以外にも、「板樒」「紙樒」という考え方もあります。

葬儀の規模や会場が小さくなっていっている現在花輪代わりの樒(しきみ)を出すのが難しい状況もあるため、板や紙に名前を書きつけて樒(しきみ)の代わりにするとするやり方が出てきたのです。これを、「板樒」「紙樒」といいます。これも関西方面ではよく見られるとされています。


樒(しきみ)と混同されやすいものに、「榊」があります。榊は樒(しきみ)と似ていて、美しい緑色の葉をつけます。また、これを使って祭壇を作ったり、お墓に供えるものとして使われたりするという共通点があります。

ただ、一部の例外を除き、「仏教では樒(しきみ)を使い、神式では榊を使う」という考え方があります。それを象徴するかのように、樒(しきみ)は「梻(木編に、旧漢字の「佛(仏)」と書く)」、榊は榊(木編に「神」と書く)」という漢字で表されます。

また、神式の葬儀においては、「玉串奉奠」として、榊を祭壇に捧げる過程があります。これは仏教におけるご焼香と同じ意味を持つもので、非常に重要です。

なお、一部の例外として、「愛宕神社」があります。ここは神社ではありますが、樒(しきみ)も非常に重要視しています。

このように、樒(しきみ)は仏教を信じる人にとって欠かすことのできない非常に重要な花・植物です。かつては実利的な目的でも使われていた樒(しきみ)は、現在でこそ宗教的なものとして扱われるようになりましたが、それでもこの花・植物の重要さはかわりありません。

仏式の葬儀を執り行おうとしている人ならば一度は目にすることになるものでもあります。どんな花・植物かをきちんと把握して、おきたいものですね。

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  • お墓選びで複雑な手順を簡単に詳しく理解したい
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